低温食品卸物流/国分㈱ 時間別作業で複数荷主の食品を仕分け
音声ソリューションで生産性30%アップ
福岡低温センター

小売・食品 物流

コンベヤでは他荷主業務、スペースがない

食品卸大手の国分㈱は,2013年10月開設の福岡低温センターに,ヴォコレクトジャパンの音声認識ソリューションを導入した。
同センターは国分および国分フードクリエイト九州㈱(KFC九州)が,3PL 業務を委託する福岡吉田海運㈱の初めて構えた2層階建屋に賃借する形で入居(福岡吉田海運では「須恵物流センター」として登録)。ドライ,冷凍,冷蔵の3温度帯に対応する汎用施設として構築。九州自動車道を駆使することで九州全土をカバーする食品物流拠点となった。

新センター開設の経緯は,国分が新たに㈱阪急キッチンエール九州(HKY九州)の物流業務を受託したことに端を発する。国分側では同社業務の受託を機に,新センターを核にした福岡地区のネットワークを再構築し,顧客の輸送効率を向上させる狙いがあった。

HKY 九州ではこれまで,自社物流センター(福岡県)でコンベヤを設置した庫内オペレーションを実施してきた。「ところが新センターにコンベヤを設置したら,物理的に阪急キッチンエールさん以外の荷主さんの業務ができないことが判明しました」と語るのはKFC九州の山本博史専務だ。コンベヤが庫内スペースの半分以上を占有することをレイアウト案で確認したのだ。

これにはKFC九州も庫内作業を請け負う福岡吉田海運も頭を痛めた。何か新たなマテハンの工夫が必要なのだが,何かは見えてこない。そこで庫内業務責任者である福岡吉田海運の安井豪志・物流事業部次長は,コンベヤのほか,GAS(ゲートアソートシステム)の資料を取り寄せたほか,ピッキングカートのプレゼンを受けたが,どうもピンとこなかった。
立ち上がり時からHKY九州のほか,国分のチルド商材を扱うKFC九州,大型ディスカウントストアM社のチルド商品,この3社の荷主の業務を扱うことは決定しており,汎用性に問題があったからだ。

そんな折,音声物流ソリューションを提供するヴォコレクトジャパン㈱から,パートナー企業の1社である㈱インフォセンスを紹介された。インフォセンスは山九㈱の情報システム子会社で,ITソリューション事業を展開。ヴォコレクトボイスの販売から導入・保守まで一括し営業展開を開始したところだった。

安井氏は音声ソリューションが固定設備を必要としない点に着目した。「レイアウトフリーで,固定ラインを作らないで済む」と安井氏は目を輝かせた。

音声ソリューションのメリットはさまざまあるが,安井氏は山本氏に荷捌きスペースが有効活用できる利点を説き,その報告を聞いて確信した山本氏は国分本体,そしてHKY九州の説得に回った。

HKY九州事業統括部の松田訓部長代理は「固定された棚での運用が不要となり,無限に汎用性を持たせることができる」点を評価した。
「常時設置型設備の回転率アップという発想ではなく,棚自体の移動を可能にしたのが音声でした」と山本氏は振り返る。
このように音声システムはまず,ロケーションの自由度と曜日波動に対応できる優位性を持つ。コンベヤ方式であればアイテム数は棚数で決定されてしまうが,音声ならフリーロケーションの荷捌きスペースで,アイテム数を拡大する拡張性がある。また「正確性が高くなるとの直感も働いた」と山本氏は語る。

こうして,福岡低温センターに音声認識ソリューションの導入が決定。複数荷主の商品を時間で区切り,これだけの規模で扱う稀有な事例が誕生した。

打ち合わせは13年2月に開始されたが,導入決定は5月,稼働開始は10月というタイトなスケジュールだった。音声ソリューションのシステム概要図は図表2の通り。

図表1福岡低温センターの概要

所在地福岡県糟屋郡須恵町植木1448番地
敷地面積20,873㎡(6,314坪)
延床面積11,748㎡(3,554坪)
スペック●梁下有効高:5.5m
●プラットフォーム高:1.0m
●ドックシェルター:11基
●最大接車台数:20台
●垂直搬送機:1基
取扱アイテム7,000アイテム
取扱物量約15,000ケース/日
倉庫スペース(1F)●冷凍(-25℃):261坪
●冷凍(-30℃):16坪
●冷蔵:1,026坪
●常温:574坪(計1,877坪)

図表2Vocollect Voiceのシステム概要図

歩行距離の大幅短縮と生産性向上が実現

同センターのメイン荷主となるHKY九州の受注締め時間は午前0時30分。出荷指示受信は1時30分,実際の作業時間は2時30分から9時までとなる。出荷は1日およそ7,200ケース(冷凍1,200,冷蔵3,200,ドライ2,800)で,この時間帯に全てを完了しなければならない。ヘッドセットからの音声で指示されたロケーションまで台車を搬送,その後は必要な商品と個数の指示を音声でコンピュータとやりとりしつつピッキング作業を行う。歩行距離の大幅短縮と生産性向上が実現できた。

【画像:1】が冷蔵品のピッキングエリア。その活気がある現場の様子を【画像:2〜7】に示す。ピッキングで使用するケースを用意し6輪台車【画像:4】に積載,摘み取りを行う。台車は汎用品を使用し6ケースに対応,つまり6家庭分の宅配荷物を台車1台でピッキングできる。ヨーイドン!の掛け声もピストルの音はないが,作業するピッカーたちは速度を競うように作業を行い,そのスピードに記者は目を見張った。

 

■画像:1 HKY九州冷蔵エリア ■画像:2 宅配用ケースにビニールを入れ,仕分けの下準備 ■画像:3 6輪カートは色別で6間口に対応

図表3タイムテーブルで別の荷主の作業に移る

 

以前見たデジタルピッキングシステムの導入現場の迅速作業は記憶に残っているが,それは数m内での限定されたスペースのこと。同センターでは40名ものピッカーが「速歩」のような早足で台車を搬送,1点あたりの摘み取りと音声確認は数秒間で終了。次のロケーションまでまた移動していく。【画像:7】の検品作業ではラベルに記載された商品数をチェックする点数検品を行い,問題がなければ梱包する。
おもしろいのはセンター庫内作業において,「ピッカーが花形」というヒエラルキーになっていることだ。作業者別の「Voiceピッキング実績」を日々,点数で出している。

作業時間,箱数,作業物量工数,点数が発表され,月間優秀成績者には報奨制度がある。開始時間を最初の商品をスキャンした時刻,終了時間を最後の商品をスキャンした時刻として,時間あたりの処理箱数は,箱数÷作業時間(分)×60(分)で計算される。取材時のトップ成績者の堂口康雄さんの実績は124.3箱/時だった。これが作業をする人たちのモチベーションアップにもつながっていることが実感できた。

前述の通り,同センターでは3社の荷主の商品を扱う「3毛作」物流を行うため,可変式レイアウトを採用(図表3)。荷主の作業形態に合わせて,レイアウト組み換えを実施し,庫内スペースの有効活用と最適化を図っている。
【画像:7,8】は大型ディスカウントストアのM社の店舗別仕分け, 【画像:9】はKFCの店舗別仕分けの様子。

 

■画像:5,6 同センター名物でもある“速歩”ピッキングの様子
■画像:6〜9 検品は数量のみ確認。搬送するコンベヤ上で行うため,ここでも速度が求められる ■画像:7,8 大型ディスカウントストアM社のピッキング ■画像:9 KFC九州のピッキング現場

生産性30%向上で「可能性拡がる」

このように音声システムでは生産性の高さも際立つ。導入前のトライアルを経た後に,「コンベヤ並みの生産性が出せるかも大きな命題でした」と山本氏。図表4の処理箱平均数を見ると,明らかに右肩上がりの数値が出ており,生産性は30%向上を達成できた。
「これだけの生産性が出せるというプライドを持って仕事をこなすピッカーたちの姿は,頼もしい」と山本氏は胸を張る。

稼働当初より数値が伸びているのは,国分お得意の品質重視の物流業務指導が始まったこともあるが,出庫ミスなどを防ぐ仕掛けとして,例えば,種まきする際に棚の前で「はい」と返答するのではなく,入れるべきボックス前で返答させるなど,緻密できめ細かいステップを経た結果でもある。
「興味深いのはコンベヤ方式で必要だった人数より,音声での人数が削減できていること」と安井氏は指摘する。レイアウトフリー,ハンズフリー,アイズフリーでできる作業に加え,動線を見直すことでさらなる生産性向上を達成した。

ドライ仕分けスペースのレイアウトは図表5の通り。左側は,開始時レイアウトで歩行距離は長くなるが棚前でピッキング可能で正確性を重視する「一筆書き」の動線だが,現在は作業見直しの結果,右側の「枝葉取り」方式に変更した。
ただし誤出荷もまだ発生している。HKY 九州のドライで約5件,同冷蔵で10件ほど(ともに月間)となるが,ミス率をゼロにする手だてが今後の課題という。

本誌でこれまで紹介した事例でも音声システムでの新人教育期間はかなり短いが,当センターでも「音声は3日も作業すればマスターできる」と山本氏は話す。
また澤野支店長は「音声を活用することで,食品の物流作業のコストメリットが如実に出てくる」ことを指摘する。①同じ場所,同じマテハンを使用しながら 摘み取り作業と種まき作業ができる,②固定費である賃料の坪単価も時間で算出することが可能となったことを挙げ,「作業受託した後も得意先様の作業変更に柔軟に対応していける。得意先様にとっても大きなメリットになるでしょう」と話す。

さて,今後の展開について,山本・安井両氏は異口同音に「入荷検品への活用」を指摘する。現在はHTでバーコードをスキャンしているが,入荷検品まで音声を使用するにはセンター全体のWMSを再構築する必要があった。そこで現在,国分・HKY九州双方のWMSをもとに,インフォセンスの開発したボイスを動かすためのシステムを追加しているところ。インフォセンスでは音声システム対応の新たなWMS「ZIZAIA」(ジザイア)を市場投入,音声との相性も評価が高く,多数の引き合いがあるという。

「昨年までは国分社内で音声への抵抗感がありましたが,福岡低温センターの生産性が当初のイメージ以上に上がり,総合評価が大きく変わりました」と語るのは澤野支店長だ。「音声導入で庫内業務のポテンシャルが上がった。新規業務受託につなげていきたい」と,今後の展開も視野に入れながら豪快に笑った。

 

図表4時間・作業人時あたり処理箱平均数

図表5時間・作業人時あたり処理箱平均数

労働力不足対策は外国人留学生を戦力に

さて,物流業界に限らず,労働力不足は年々深刻さを増しているが,同センターの秘策は外国人留学生を多数登用していること。これを重要な戦力と位置付ける。
センター竣工時に募集をかけたところ,日本人以上に日本語学校に通う留学生から多数の応募があった。そこで,同センターでは福岡市居住のネパール人とベトナム人の留学生を広く受け入れた。
彼らは最寄りの門松駅まで最終列車で乗車,徒歩20分ほどかけセンターまで通い,始発で帰宅する。センター開設当時は尖閣諸島の一件があった直後のため,日本語学校に中国人の受け入れがなくなった時期だった。このため現在はベトナム人とネパール人が主体となっている。
福岡吉田海運の3か国語を話せる社員が彼らの教育を担う。また実際に使用するヴォコレクトボイスは英語版と日本語版だ。2年間の留学時期を終えた後は後輩にバイト先として紹介してもらう予定だという。

前述の作業者別ピッキング実績ランキングでも留学生たちは好成績を修めており,国籍に関係なく,体力と集中力があれば早くできるということが音声で証明された。
福岡吉田海運では,同センターの成果から隣接した土地を購入し,2016年12月に稼働開始予定で新物流センターを建築する計画。当然のことながら新センターでも音声を活用する。

本事例では音声ソリューションのポテンシャルがまた一つ明らかにされたわけだが,近い未来の物流現場の新しい方向性が示唆されたような気がした。