㈱ケー・シー(図表1)の名は,今や全国区の知名度をもつグループ企業のDMM.com(以下DMM)の物流を支える会社として認知されることが多い。
なにしろDMMはDVD,CDからファッションまで約5万アイテムの幅広い品揃えでオンラインレンタル,通販,動画配信等の総合エンターテイメントサイトを展開する注目企業。近年開始したFX(外国為替証拠金取引)では2010年のFX業界年間取引高第1位となるなど,インターネット事業をさらに拡張中だ。
だが実は,得意分野に集中してDVDなどのメディア制作・販売事業を展開していたケー・シーが,オンデマンド映像配信システムの拡大に危機感を抱き,新事業として開始したのが,1999 年に設立したDMMのビジネスなのである。
もちろん,現在のDMMのレンタルメディアや通販商品発送などの業務を物流センターで支えるのもケー・シーだ。レンタルサービスの顧客の40%は関東なため,関東地区にも外部委託で物流拠点を置いている。しかし同社のビジネスはそれにとどまっていない。
「ケー・シーの設立は77年で,当初は飲食店やビデオレンタル店などを手がけ,その後卸を通してビデオやDVDなどのメディアを全国の店舗に販売していました」と同社取締役の中西隆彦氏は話す。
「しかし将来の方向性を考えた末,〈委託販売〉方式を導入することにしました。富山の置き薬と同じく,まずは商品を店に置いてもらい,売れた分だけ精算する仕組みとしたんです。これによって事業を順調に拡大してきたのですが…」
問題もあった。元払いで店舗に送付し,売れなかった分の返品は着払いとし,販売店はノーリスクで新鮮な商品を仕入れ,売上を上げることが可能になるから委託販売方式は好評で,販売取り扱い店舗は約4,000店に拡大,ケー・シーの成長を加速できた。その反面,商品在庫と直送での発送業務に返品の受付処理も加わり,物流機能の拡充が新たな課題になってきた。
そこで同社は97 年,物流業務を本格的に開始した。01 年には石川県加賀市美岬町に本社も入る約1,400坪の物流センターを完成。02年,05年,07年と3期にわたる増築工事を経て,敷地面積約3万4,000坪,延床面積約1万2,000坪と石川県で最大級の物流拠点を完成。メディア流通を主対象に最新物流機器を揃え,最先端の物流拠点へと成長させたことで,多様なサービス提供を可能とした。
「物流体制を整えたことが,当社発展の大きな要因になりました。自社商品はもちろん,他のメーカーの物流業務受託も開始しています。全国の販売ネットワークと物流体制を持っているのが強みで,現在これら物流外販事業は売上の半分を越えました」
図表1㈱ケー・シーの会社概要
本社 | 〒922-0551 石川県加賀市美岬町1-1 TEL.0761-75-8850 FAX.0761-75-4001 |
設立 | 1977年7月1日 |
資本金 | 3,000万円 |
年間売上高 | 10,550百万円(2011年7月期) |
代表者 | 代表取締役社長 亀山敬司 |
従業員数 | 471人(2011年7月末現在) |
事業内容 | ①DVD,CD,BDなどのDISCメディアのプレス,アッセンブリ業務 ②あらゆる商品の在庫保管,及び全国への梱包発送業務,また入荷・返品の検品仕分け等の物流サービス事業 ③DVD,CD,BDを中心としたメディアのプレス,アッセンブリ,在庫保管,梱包発送,入荷,返品の検品などの物流サービス全般 ④DVD,CD,BDなどのソフトレンタル事業 |
主要納入先 | アマゾンジャパン,楽天,TSUTAYA,GEO |
代表的な顧客としてはアマゾン,楽天,TSUTAYA,GEOなどのビッグネームも並んでいる。
だが物流だけではない。同社はDVDなどの撮影・制作,ディスクのプレスなど上流の製造工程まで内製化を推進。製造・販売・物流とサプライチェーンをカバーすることで,大きくビジネスを展開中なのだ。限られた分野ながらユニクロなどのSPA,あるいはバリューチェーン統合型のビジネスモデルと言っていい。
「スケールメリットを活かし,台湾や韓国でディスクのプレスも行っています。ケース挿入,シュリンクフィルム掛け/返品のフィルムはがしなどは物流センターで行い,企画の元になる販売データの提供も実施しています。一般の3PL企業とは異なり,あくまでもグループ内の製造・物流ニーズに応える必要があって拡充してきた体制を,外販事業にも展開しているのです」(同)
こうしてケー・シーが体制を整備し,提供可能としたサービス内容を,それを支えるシステムとともに以下,概観していこう。