医療機器・機材3PL物流/三井倉庫㈱ 音声認識システムバーコードのない
医療機器も正確・迅速ピッキング
辰巳SSセンター

医療/ヘルスケア

高品質で競争力のある海上輸送サービスを

「本倉庫は高度なセキュリティ管理を可能とする倉庫として,5年前に建てられました」と三井倉庫㈱(図表1)関東支社東京支店・辰巳事務所所長代理の港氏は説明する。「一般に倉庫といえば港湾地区の立地が多く,アクセスも悪くなりがち。
しかし辰巳事務所は地下鉄・辰巳駅(有楽町線)出口から徒歩約4分。りんかい線の東雲駅(徒歩13分)なら羽田空港や品川・新宿に,JRの新木場駅(18分)なら東京駅に直結しており,この好立地が医薬・医療機材関係のお客様からはとくに高い評価を受けているのです」

倉庫の所管面積は26,316㎡(6階建て)の規模で,14,388㎡にはトランクルームの認定を受け,プラットフォームと8つのドックを備えている。
小林氏は「建物についてもセキュリティや保管体制に大きな投資をしています」と付け加える。聞けばITV 監視カメラと赤外線センサー等により24時間365日の監視態勢が敷かれ,さらにICカード認証設備による厳重な入退室管理を行っているのがその一例。保管条件に万全を期すため,年間を通じて定温・定湿(17℃・55%前後)を保つ保管エリアも用意したうえ,万一の際に備えて自家発電装置も設置している。

では今回,本倉庫に音声認識システムを導入した理由は何なのか。
「ゲティンゲ・ジャパン様から3PL業務の話をいただき,ミスを起こさない作業を求められたのが導入検討のきっかけでした」とシステム担当の小林氏はいう。医療機器・機材の場合,出荷ミスは医療事故にも直結するため,絶対に許されない。「その命題達成のために最先端システムの導入を決定しました」というのだ。

図表1三井倉庫ホールディングス㈱の会社概要

本社〒105-0003
東京都港区西新橋3丁目20番1号
設立1909年10月11日
資本金11,100百万円
売上高1,615億円
代表者代表取締役 藤岡 圭
従業員数779名
事業内容国内物流,海外物流,港湾運送,不動産,情報サービス,3PLサービス(SCM支援),3PLサービス(治験薬物流),BPOサービス

従来型の入出庫システムの問題点

三井倉庫では導入検討に当たり,従来システムと音声システムの比較を行った。それによるとバーコードとハンディターミナルを利用した従来型の入出庫作業は,以下のような手順で行なわれる(図表2)。

入庫の場合でいうと,❶入荷予定データを顧客から受け取ってシステムに取り込み,入荷予定リスト,商品バーコードラベルを事
前に出力しておく。❷顧客から品物が入荷されると,梱包を解いて不良品がないかどうかをチェックするとともに,商品の外装コードと1つひとつ突き合わせながら,❶で用意した商品バーコードラベルを貼り付ける。❸保管場に移動し,バーコードスキャナで棚番をスキャンする。❹最後に商品バーコードをスキャンし,システムに棚付け登録(どの棚に保管したか)をする。
という作業だ。出庫の場合には,逆の流れとなる。

ここでの最大の問題は,本案件ではバーコードが添付されていない輸入商品がかなり多くを占めるという点だ。
そもそも検品作業は入荷予定リストと品名などの目視照合しかなく,さらに庫内作業をバーコード化するためにはインストアコードを入れたラベルを出力しておき,そのラベルを1つひとつ正確に貼るという煩雑な作業が加わる。その手間だけでなく,ラベル貼りの段階でミスを誘発する可能性が高いのが問題だ。

実は同社では以前,治験薬(臨床試験用の医薬品)の物流を受託した経験がある。治験薬はまだ世の中に出ていない薬品であり,誤って出荷すれば大変な事態を招く。「そのため商品番号ではなく,厳密なシリアル番号(1品1品に唯一のユニーク番号)が振ってありました。それなら,わざわざ手間を掛けてラベルをつくるより,シリアル番号を音声で読み上げることで検品できると考え,音声認識システムを採用した実績があるのです」(小林氏)

今回の案件では,バーコードのない製品にはアイテムごとに製品番号がついている。ならば類似の導入効果が出せるのではと着目したのだ。先の従来型システムのフローに対し,音声認識システムによる作業フローをまとめたのが図表2になる。
ラベル出力と手貼りの手間が解消されるほか,後で詳しく述べる通り音声端末を腰に,ヘッドセットを頭に,小型バーコードリーダ(リングスキャナ)を手首・指に装着するため,両手を使って作業ができ(ハンズフリー),さらにつどコードを音声で確認して作業を進めるため,バーコードなしでも正確を期すことができる。その優位性は明らかだった。同社ではこうした比較検討の結果,音声物流の分野でグローバルな実績をもつ,ヴォコレクト・ジャパン社のシステムを採用することにした。

図表2ラベル貼り&バーコードスキャナを利用した場合の入出庫作業フロー

図表2音声認識システムを利用した場合の入出庫作業フロー

音声認識システムでステップごとに確認

同社ではゲティンゲ・ジャパン㈱に音声認識システムによる庫内作業のメリットを説明し,了解を得るとただちに準備に入り,ここ辰巳事務所でシステムの稼働をスタートさせた。テストも含め開発期間はわずか2か月。先述の治験薬の物流業務に採用経験があった事情も大きかったようだ。
通常の無線ハンディターミナルに比べると,音声認識システムの導入コストは高くなるが,毎日のラベル貼りが不要になり作業性が大きく高まることを考慮すれば,十分にペイすると判断した。

音声認識システムによる作業手順を,図表2の入庫作業から追ってみよう。

❶顧客から入荷予定データを受け取ってシステムに取り込み,入荷予定リストを出力(これは従来と同じ)。
❷入荷したら,梱包を解いて不良品がないかどうかのチェックを行なう(商品の外装コードと商品のバーコードラベルとの突き合わせ作業は不要。不良品のチェックのみ)。
❸保管場に移動し,リングスキャナ(リスト型:手のひらが使える)で棚のロケーションバーコードをスキャンする。
❹音声認識端末によって,商品外装コード・数量を音声で読み上げ,システムへの棚付け登録をする。

続いて出庫作業の流れを,図表2下と現場の様子で追ってみる。

❶事前に顧客から頂いた出庫予定データをシステムに取込み。作業開始時,作業者は音声認識システムのフルセットを装着し,まず出庫指示伝票のバーコードをリングスキャナで読む【画像:1】。
❷システムから音声で棚番が指示される。その音声指示に従って棚間口へ移動し,ロケーションバーコードをリングスキャナで読んで,間違いないことを確認【画像:2】。
❸すると音声で製品コードと数量が指示されるので,商品をピックし外装の商品コード・数量を読み上げる【画像:3】。この時,片手では持ちにくいかさ物や重い商品でも,両手が使えるので安全・確実にハンドリングできる【画像:4】。
❹エラーがなければ,ピックした商品を配送箱に詰める,またはパレットに積んでいく(【画像:5】,大物はフォークリフトでピックし出荷エリアに)。この作業を1オーダー分の予定が完了するまで継続。なお,腰に装着した音声端末は,無線LANにより常に音声管理システム・WMSと連携しているので,庫内ならどこに移動しても指示をやり取りできる。
❺ピッキング後は出庫検品を行い,顧客の最終確認を経て,梱包。各種出庫伝票を貼り付ける。
❻配送先へ出荷,配送する。

■画像:1 出庫指示伝票のバーコードをリングスキャナで読み取り ■画像:2 ロケーションバーコードをリングスキャナで読み確認 ■画像:3 音声指示された商品のコード・数量を読み上げ ■画像:4 かさ物でも両手で安全・確実にハンドリング ■画像:5 ピックした商品をパレットに集める

学習で運用改善、ノーミスの導入効果

「使ってみて実感できた大きな効果の1つは,やはり作業員の両手が空いた状態で作業できることです。従来のバーコードリーダは片手で持つため,片手しか使えませんでした。ところが本システムのリングスキャナは,両手が空いた状態でスキャンできるので便利」と港氏はいう。大事な品物を両手で大切に扱えるのは,現場にとっても有難いことだろう。
同時に,より効率的な運用のためには,音声システムならではの工夫が必要になる。本倉庫では,システム側が個人の音声を確実に認識できるよう,事前にトレーニングを行っている。音声システムの作業担当者を5名決め,1人ひとりのクセをシステムに覚えさせるため,「ゼロ」からの数字を一通り発声し,登録する。同じ言葉でも人によって発声やイントネーションが微妙に違うからだ。

「最初の登録トレーニングは20〜30分で終了します。さらに毎日,仕事を始める前に短い数字を発音させています。同じ人でも,その日の調子で声やトーンが変わるからです」(小林氏)
興味深いのは数字より,アルファベットの登録の方が大変だということだ。日本人とネイティブの欧米人では英語の発音がかなり異なるため,そのままの発音では認識が悪い場合がある。
その対策として本倉庫では,「アメリカ(A)」「ブラジル(B)」「カナダ(C)」…と,アルファベット26文字を分かりやすい名詞で置き換えることで,間違いなく認識できるようにしている。また,認識が悪い音については,つど発音の再トレーニングを行うことで認識率を向上させている。
「将来的には,日々の発話の中で自動的に端末側が学習してくれるようになれば有難いのですが」と小林氏は続ける。

「ミスを絶対に出してはいけない,という対策からシステムの導入検討を始めたのですが,現時点までたった一度の出荷ミスもありません」と,導入効果は明らかに表れている。人は仕事に慣れてくると,つい決められた工程を飛ばすこともあるが,音声システムは標準化された作業工程に沿って,1つひとつ音声やバーコードで確認をする。これが出荷ミスに対する確実な歯止めとなっているようだ。

「出荷ミス・ゼロをクリアできたので,次の目標はスピードアップです」と港氏。現在までの成功に満足することなく,新たな課題を設定し,日常業務のなかで達成し続けること。それが実現できた時が,本システム導入の本当のゴールなのだろう