東京大学附属図書館 図書収容能力300万冊を地下46mの
自動書庫でXenon1902導入

物流

東京大学附属図書館連携の要、総合図書館と地下の別館

1877年(明治10年)に創設された東京大学は,その半年後に図書館を設置しており,図書館は同大学とほぼ同じだけの長い歴史を有している。同大学は学部,学生の自主性,独立性,自治性を重んじる伝統から,学部,学科,専攻ごとに図書室を設置してきた経緯があり,かつては50を超える図書室を維持していた時期があったという。その後,社会的な合理化,人員削減の潮流に伴う合併等を経て集約されてきたが,今日でも約30の図書館・図書室が学内に置かれている。

また同大学には本郷とは別に駒場キャンパス,柏キャンパス,白金台キャンパスがあり,個々に部局の図書館を設置している。さらに複数の部局図書館を有する本郷,駒場,柏にはそれぞれキャンパスの拠点図書館が置かれ,これら全図書館・図書室の総称が「東京大学附属図書館」の体系である。

いわば,多数の図書館が協調する一つのシステムという理念で,連携・協働のために部局間の連絡調整の役割を担っているのが,本郷キャンパスの総合図書館なのだ。大学によっては中央が本館,部局側が分館といった位置づけの図書館組織も多いが,全体が平等な横のつながりとして組織されているのが同大学の特徴でもあるという。

原 香寿子

「まず基本には各図書室でそれぞれのサービスがあり,それを各拠点図書館で集約する方が効率的なことについては拠点ごとに集約し,全学的に集約すべきものについてはここ,総合図書館でまとめて取り扱っている業務イメージです」
と教えてくれたのが,東京大学附属図書館 情報サービス課 専門員(情報サービス担当)の原香寿子氏だ。

当然ながらアカデミックの分野における図書資料は,期間限定の商品とは異なり,保管すべきアイテムは一方的に増え続ける特性がある。これまでも,個々の図書室で収納しきれなくなった資料のうち,利用頻度の低いものについて郊外に置く等の措置を模索し,例えば自然科学系分野の雑誌は柏の拠点である柏図書館に集約,必要に応じてそこから出庫,コピーサービス等で対応する等のシステム改変を行ってきた。
ところが,文学部や法学部など人文社会系分野の研究者は雑誌の掲載論文だけではなく図書を利用することが多く,本郷キャンパスの敷地内に保存書庫要望の声が年々高まっていたという。

守屋 文葉

「色々な検討を重ねてきた結果,本郷キャンパス内には地上に大規模な建築スペースは残されていないことから,地下に施設を新設しよう,という結論に至りました」
と,壮大な地下新施設の建築計画が立ち上がるまでの経緯を語ってくれたのが,同附属図書館 情報サービス課 主査(国際資料担当兼務)国際資料係長の守屋文葉氏だ。

2010に計画スタート、地下施設は全自動化の英断

計画自体が端緒についたのが約10年前の2010年。実際に新施設の具体的構想が進み始める段になると,昭和3年に建造された本館の建物自体にも耐震改修工事が必要であることが判明した。そこで,耐震改修作業と同時並行で地下の新施設を建造し,一体的に図書館改修を進めよう,との方針が決定。遂に実際の建築が動き出した。総合図書館の別館が新たに建設される場所は,本館玄関前噴水スペースの直下に決定。だが,そもそも現在の本館が建築されたのは関東大震災による炎上全壊のための建て直しで,当時の設計者も詳細な経緯も不明だった。そのために,埋蔵文化財調査を始めて間もなく,震災で焼失し,取り壊されたと思われていた旧図書館の土台の一部等が発見される等,想定外のドラマチックな展開もあった。土台の一部は歴史的史料として別館の入口に設置されている。
2015年からスタートした本館の改修作業は,広大な面積の図書館を閉館することなく,機能を維持しながら進める必要があるため,エリアごとに分割して資料の移動を小刻みに繰り返しながらのパズルを解くようなオペレーションで,今現在も継続進行中である。

「そもそも本館内には120万を超える資料が収納されていて,構造的に重量超過との見方もあったので,別館完成時には,資料の性格や用途に合わせて,一定程度資料を別館に移動収納する計画としました」(守屋氏)新規に建造された別館は,地下46m,マンションであれば15階相当の高さを4フロアに分割し,そのうち3フロアの全面に自動書庫を設置するという,巨大なスケールの計画である(図表1)。コスト面での負担も大きく,判断も容易ではなかったはずだが,類似の施工例は他にもあるのだろうか?

「地下1~2階に通常フロアを設けた図書館はありますが,国内の収蔵スペースでここまで深い例は多くありません。国会図書館にも地下に自動書庫がありますが,このサイズの地下の自動書庫設置例は,国内ではもしかするとこの別館だけかもしれません。確かにコストの負担は大きいですが,別館上部のB1にはライブラリープラザという会話のできる学習スペースも設け,大学として必要な公共機能スペースを追加することで学内全体の理解を得る等,単なる倉庫だけではない点のアピールも心掛けました」(守屋氏)

別館の地下建築プロジェクトそのものは粛々と進行し,2017年5月に完成を見る。一方で,各フロアに自動書庫を設置し地下を無人化オペレーションとすること,また設置される巨大MH機器の選定等はどのように意思決定されたのだろうか。

「コンテナ式の自動化書庫からロボットがピッキングしてくるシステムは20年ほど前に国際基督教大学図書館が取り入れており,当大学の柏図書館でも10年前の開館時から導入していましたので,地上施設での先行事例はありました。そうした経験値を基に『同じ容積で収納能力を最大化する目的ならばこれがベスト』という認識はあったのです」(守屋氏)

ただ,図書館を利用するユーザー目線では,学内に様々な意見があり,「資料を探しに書架まで足を運び,その領域にどんな本があるのかを自分の目で探し,想定していなかった資料と出会える可能性まで含めて,ブラウジングできる体験が図書館の重要な機能であり,それは学生への教育上も大切だ」という反対意見も根強かったという。
とはいえ,人間の目視を前提にするとフロア高は限られ,結果として多層階構造になるほど総収納量は減る。そこで最終的には,同体積でのマックス収納量を優先して無人の自動化倉庫を選択することとなった。また,多層階構造の地下設備を人間が利用する場合,万一の震災時の避難等でリスクが大きいという判断も影響した可能性がある。

図表1別館自動書庫3D図

最大収納能力を重視し、オートライブ導入を決定

巨大な地下スペース3フロアに自動化書庫として導入されたのは,日本ファイリング㈱のオートライブだ。多くの提案が共通サイズコンテナに,大小あらゆる書籍・資料を収納する手法だったのに対し,唯一,日本ファイリングのみが,複数サイズのコンテナを設定し,各々ブロックで専用ラックにまとめることで無駄な空きスペースを圧縮,フロア全体を効率的に用いるソリューションを提示した。

「実はこの手法ですと,作業者が収納時にサイズを判別する工程が追加される分,オペレーション上は不利かもしれないのですが,結果的に有効活用できるスペースが大幅に増大しました」(原氏)

コンテナサイズに合わせて3種類の専用ラックを構築するためには,設計の段階でどのサイズのラックをいくつ設置するのか決める必要があり,将来どのサイズの本をどの程度収納することになりそうか,そこは従来の実績と,未来予測を組み合わせて最終決定したという。

それ自体が巨大な建造物並みのMH機器であるオートライブのラックは,地下施設の建築と並行して設置された。コンクリから発生する水分が紙の書籍へ悪影響を及ぼさないよう,工事終了後もしばらくは空調による乾燥を進め,1年後から各フロアに設置されたセンサ情報で温度と湿度を確認しつつ慎重に収納作業をスタート。なお,この書庫内は,温度20℃±2℃,湿度50%±5%で24時間空調管理され,そのコンディションは出納ステーション側のモニタでも確認できるシステムとしている。
とはいえ収納も,1冊ごとに個別の資料として呼び出せるよう,1冊ずつバーコードを読み込みながらのコツコツとした入庫作業である。外部スタッフをフル活用しても,1日に収納できるのは平均して3,000冊程度。継続的な地道な作業の成果で今,約50万冊がオートライブに収納され,自動書庫の貸し出しフローで運用されている。
総合図書館本館の改修はオリンピックイヤーの2020年8月に完了予定で,それまでに必要な別館への資料移動を済ませ,年内に全館のリニューアルが完了するはこびとなる。ただし,ここまではあくまで総合図書館の話。その先には各学部に分散している資料等の集約等が控えており,エンドレスな作業がこれからも続くという。

「大学の図書館は書籍そのものが資本で,これはいわば減価償却しない特殊な備品という性格を持っています。300万冊というスペックも個別の図書換算の指標であって,これまで収納したのは主に複数冊を合本した製本雑誌で基本的な束が異なりますので,今後もこの傾向が続けばもっと少ない冊数で飽和する可能性も否定できません」(守屋氏)

地下施設開発のいきさつと,図書格納にまつわる様々な課題について伺ったところで,通常は完全な無人のオペレーションゾーンである地下格納書庫を見学してみよう。

●地下自動書庫エリア

地下2階エリアに足を踏み入れると,見学窓越しに巨大な高さと奥行きの自動書庫に圧倒される【画像:1】。ほぼ天井いっぱいに組まれたラック高は約10m,サイズごとに色分けされたコンテナに応じて,専用ラックの段数が最大効率で組まれていることが見て取れる。
本館のOPACから入力された指示で書籍が呼び出されると,フロア当たり5台配備されたスタッカクレーン【画像:2】が前後に動き出して【画像:3】,指定の書籍を格納したコンテナを引き出し【画像:4】フロアへ降下【画像:5】。フロア下部のコンベヤを経由して,搬送台車,垂直搬送機等を用いて,上下移動とターンを組み合わせた多関節型のルートを移動し,本館1階の出納ステーションまで運び出されるのが,メカニカルなフローだ。返却図書の収納フローはこの逆をたどる。
窓越しでの観察ということもあるが,稼働時の作動音は静か。同様の構造が3フロアに展開していることもあり,現時点では目の前のクレーンが動いて書籍が運び出される頻度は高くない。静かに淡々と動く巨大マシンといった印象だ。

●検索・出庫指示エリア

ここからは地上に上って,書籍をリクエストする側からの作業フローを見てみよう。
まず,最も頻繁に利用される書籍については本館の開架書架などに保管されているので,目視して探し出す,通常のフロー。別館に収納されているのはそれ以外の書籍類で,設置されたOPACで検索して【画像:6】,自動書庫の表示が出たら,出庫指示の実行をクリック【画像:7】。
すると出庫の依頼票がプリントされるので,依頼者は受付番号で自分のリクエストが今,どのような状態なのか確認して待つことができる【画像:8】。役所や銀行窓口の順番待ちのようなシステムだ。

●出納ステーションエリア

その間に地下の自動書庫から運び出されてきた目的の書籍は,図書館スタッフのみがアクセスできる出納ステーション【画像:9】までコンテナごと運び出されてくる【画像:10】。スタッフはコンテナ内の書籍から,指定された書籍がどれなのかを液晶モニタの表示で判断し【画像:11】,書籍を取り出して,デスク据え置きのリーダあるいはハンディでバーコードをスキャン【画像:12】。モニタ表示で間違いないことを確認した書籍を,窓口で貸し出す。
一方,書籍が抜き出されたコンテナのスペースには,コンテナのサイズにマッチした返却書籍のバーコードを読み込んで収納するのが入庫のフロー【画像:13】。収納が完了したラックはコンベヤで奥へ移動し,同時に次のリクエストに応じたラックが横からスライド【画像:14,15】してくる。作業はこの繰り返しだ。
このA5,B5,A4といった書籍サイズと,束の厚みが空きスペースに入るかどうかは作業者の判断に委ねられているため,オートライブ出納ステーションには,段ごとにサイズを限定し,一目で厚さが判断できるように目盛りが振られた専用のブックトラックが設置される【画像:16】。

運用開始以降のユーザーとして気づいたことや要改善点

一通りの図書館内物流フローを拝見して,運用開始以降,ユーザーとして気づいたことや要改善点等がないか,聞いてみた。

「オートライブには格納時,スキャン認識した書籍を指定のコンテナに本当に戻したのかどうか,ヒューマンエラーの可能性を極力排除するため,毎回のコンテナ格納時に画像を撮影する機能があるのですが,これにより格納した書籍がパソコンの画面で一目瞭然となるので,実際にコンテナを1つずつ呼び出さなくても,現物と管理データの突合せが容易にできます」(守屋氏)

「機器そのものは,運用開始直後からいくつかラインが停止する初期トラブルらしきものはありましたが,要改善というほどの深刻な事態は発生していません。同じソリューションは柏で経験済みということもあるのでしょうが。個人的には,庫内収納にあたって,本当にわずかでもコンテナからはみ出しているとセンサが感知して停止する点が,現場の実用面ではセンシティブ過ぎるのではないかとの印象もあったのですが,これは万一の接触等で資料やメカニズムが損傷するリスクを考えると,必要な水準かもしれません」(原氏)

「このコンテナは表と裏の2スペース構造になっていて,ステーション開口部側の裏側にも同じ収容能力を持っているのですが,現状ではまだそこに物は入っていませんし,そもそも各フロアのラックも奥の半分はほぼ未稼働という,スペース的にかなり余裕のある状態で運用しています。将来これが埋まってくると,今とは違う課題が浮かんでくる可能性はあるでしょう。例えば現状では1日あたり最大140冊程度の入出庫ですが,蔵書と並行して入出庫量が加速度的に増加すると,機械はともかく出納作業そのものが追いついていかなくなる事態が起こるかもしれません」(守屋氏)

総じて稼働開始して以降,図書館ユーザー側からの自動書庫の評価は上々だという。実際に使ってみると,シンプルなOPACで目的にアクセスし自動出庫されてくる便利さが,実感されたのかもしれない。

100年をはるかに超える歴史ある図書館の伝統を受け継ぎ,地下スペースを活用した別館という10年来の計画を具現化した東京大学附属図書館の本郷キャンパス総合図書館。そこには巨大なスケールの設備の中に,極めて独特の庫内物流ロジックで運用される,図書の専門家と自動機械とのコラボレーションが息づいていた。