巨大な地下スペース3フロアに自動化書庫として導入されたのは,日本ファイリング㈱のオートライブだ。多くの提案が共通サイズコンテナに,大小あらゆる書籍・資料を収納する手法だったのに対し,唯一,日本ファイリングのみが,複数サイズのコンテナを設定し,各々ブロックで専用ラックにまとめることで無駄な空きスペースを圧縮,フロア全体を効率的に用いるソリューションを提示した。
「実はこの手法ですと,作業者が収納時にサイズを判別する工程が追加される分,オペレーション上は不利かもしれないのですが,結果的に有効活用できるスペースが大幅に増大しました」(原氏)
コンテナサイズに合わせて3種類の専用ラックを構築するためには,設計の段階でどのサイズのラックをいくつ設置するのか決める必要があり,将来どのサイズの本をどの程度収納することになりそうか,そこは従来の実績と,未来予測を組み合わせて最終決定したという。
それ自体が巨大な建造物並みのMH機器であるオートライブのラックは,地下施設の建築と並行して設置された。コンクリから発生する水分が紙の書籍へ悪影響を及ぼさないよう,工事終了後もしばらくは空調による乾燥を進め,1年後から各フロアに設置されたセンサ情報で温度と湿度を確認しつつ慎重に収納作業をスタート。なお,この書庫内は,温度20℃±2℃,湿度50%±5%で24時間空調管理され,そのコンディションは出納ステーション側のモニタでも確認できるシステムとしている。
とはいえ収納も,1冊ごとに個別の資料として呼び出せるよう,1冊ずつバーコードを読み込みながらのコツコツとした入庫作業である。外部スタッフをフル活用しても,1日に収納できるのは平均して3,000冊程度。継続的な地道な作業の成果で今,約50万冊がオートライブに収納され,自動書庫の貸し出しフローで運用されている。
総合図書館本館の改修はオリンピックイヤーの2020年8月に完了予定で,それまでに必要な別館への資料移動を済ませ,年内に全館のリニューアルが完了するはこびとなる。ただし,ここまではあくまで総合図書館の話。その先には各学部に分散している資料等の集約等が控えており,エンドレスな作業がこれからも続くという。
「大学の図書館は書籍そのものが資本で,これはいわば減価償却しない特殊な備品という性格を持っています。300万冊というスペックも個別の図書換算の指標であって,これまで収納したのは主に複数冊を合本した製本雑誌で基本的な束が異なりますので,今後もこの傾向が続けばもっと少ない冊数で飽和する可能性も否定できません」(守屋氏)
地下施設開発のいきさつと,図書格納にまつわる様々な課題について伺ったところで,通常は完全な無人のオペレーションゾーンである地下格納書庫を見学してみよう。
●地下自動書庫エリア
地下2階エリアに足を踏み入れると,見学窓越しに巨大な高さと奥行きの自動書庫に圧倒される【画像:1】。ほぼ天井いっぱいに組まれたラック高は約10m,サイズごとに色分けされたコンテナに応じて,専用ラックの段数が最大効率で組まれていることが見て取れる。
本館のOPACから入力された指示で書籍が呼び出されると,フロア当たり5台配備されたスタッカクレーン【画像:2】が前後に動き出して【画像:3】,指定の書籍を格納したコンテナを引き出し【画像:4】フロアへ降下【画像:5】。フロア下部のコンベヤを経由して,搬送台車,垂直搬送機等を用いて,上下移動とターンを組み合わせた多関節型のルートを移動し,本館1階の出納ステーションまで運び出されるのが,メカニカルなフローだ。返却図書の収納フローはこの逆をたどる。
窓越しでの観察ということもあるが,稼働時の作動音は静か。同様の構造が3フロアに展開していることもあり,現時点では目の前のクレーンが動いて書籍が運び出される頻度は高くない。静かに淡々と動く巨大マシンといった印象だ。
●検索・出庫指示エリア
ここからは地上に上って,書籍をリクエストする側からの作業フローを見てみよう。
まず,最も頻繁に利用される書籍については本館の開架書架などに保管されているので,目視して探し出す,通常のフロー。別館に収納されているのはそれ以外の書籍類で,設置されたOPACで検索して【画像:6】,自動書庫の表示が出たら,出庫指示の実行をクリック【画像:7】。
すると出庫の依頼票がプリントされるので,依頼者は受付番号で自分のリクエストが今,どのような状態なのか確認して待つことができる【画像:8】。役所や銀行窓口の順番待ちのようなシステムだ。
●出納ステーションエリア
その間に地下の自動書庫から運び出されてきた目的の書籍は,図書館スタッフのみがアクセスできる出納ステーション【画像:9】までコンテナごと運び出されてくる【画像:10】。スタッフはコンテナ内の書籍から,指定された書籍がどれなのかを液晶モニタの表示で判断し【画像:11】,書籍を取り出して,デスク据え置きのリーダあるいはハンディでバーコードをスキャン【画像:12】。モニタ表示で間違いないことを確認した書籍を,窓口で貸し出す。
一方,書籍が抜き出されたコンテナのスペースには,コンテナのサイズにマッチした返却書籍のバーコードを読み込んで収納するのが入庫のフロー【画像:13】。収納が完了したラックはコンベヤで奥へ移動し,同時に次のリクエストに応じたラックが横からスライド【画像:14,15】してくる。作業はこの繰り返しだ。
このA5,B5,A4といった書籍サイズと,束の厚みが空きスペースに入るかどうかは作業者の判断に委ねられているため,オートライブ出納ステーションには,段ごとにサイズを限定し,一目で厚さが判断できるように目盛りが振られた専用のブックトラックが設置される【画像:16】。